修理店が修理を断るとき
修理店が修理を断るとき。
それは、修理した後「本当に着るのかな?」と思う服の時です。
長文となります。
昨夜のクローズアップ現在を見て、居ても立っても居られなくなって筆をとりました。
2022年10月21日 17:33~NHKクローズアップ現代
「それ本当にエコですか?徹底検証!暮らしの中の環境効果」
エコと売られている商品を買っても、実は本当のエコにならない事がある。
といった、内容です。
例えばエコバックは、作る際のCO2排出量がプラスチック買い物袋より大きい。なので、150回以上使わないと、CO2排出量の点ではエコにならない。といったものです。
ゲストの中谷隼さんが最後に、3つのポイントをまとめていました。
①どの環境問題に有効か?
②根拠となる数字は?
③ライフサイクル全体像は
これで、おおよその番組説明を終わります。
私も常々、同じようなことを考えていました。良い機会なのでまとめます。
修理をすると簡単に「エコ」と言われることがあります。修理は「エコだから、しましょう!」と呼びかけるお店もあります。でも、そう単純ではないと当事者として思っていました。
●修理をするだけで、エコにならない理由
まず衣類の受け渡しににエネルギーをつかいます。
お客様ご自身が遠方から電車に乗って持ってきたら、もっとエネルギーを使うことになりますから、配送業者に預ける方がもちろんいいです。
作業は私の人力ですが、灯りを沢山使います。色々試しましたが、手元だけを明るくすると妙な影ができて編み目が見えません。だから部屋全体を明るくしなくてはいけません。やはりエネルギーを使います。
荷物の管理やお客様との連絡には、PCが欠かせません。たとえ、自分のPCを切っていも、インターネット回線の維持には膨大な電気が使われています。さらっと考えて書いただけでも、CO2が排出していると感じます。もっと細かく考えていけば沢山の既存エネルギーを使っていることがわかります。
つまり、ニットキュアの修理は、今の主流のエネルギーである化石燃料を使った電気によって支えられた社会があって、初めて成り立つ仕事です。
私は年間1000着以上の服を直して、また着られる状態にしています。たくさん直す年ほど、沢山電気を使ってきました。これはCO2的に採算があっているのだろうかと、心配になることがあります。
服を直すことが単純にエコロジーにはならないんじゃないか? もっと違う価値を、意識した方がいいんではないか、と考えています。
一番懸念しているのはこのパターンです。
「数年ぶりに見つけたセーターに穴が空いていたので、もったいないからとりあえず直して、またタンスにしまった。」
これでは、お金を使った満足感はあるかもしれませんが、直したことが生かされていません。
数年ぶりに見つけた服です。そもそも、もう着なくていい服なのかもしれません。
「もったいない」の気持ちは大事だと思うのですが、「捨てない」だけがエコロジーになるわけではありません。
新しい価値を吹き込むレベルでアップサイクルされるのは素晴らしいと思います。けど、「捨てない」を目的にするだけでは物の価値も、空間の価値も、そこに費やしたお金の価値も、それを保管する人の時間も、減らしてしまっているのではないかな? と懸念しています。
●修理を決めるのは「また着る」かどうか
修理をして上がる価値もあります。それを考えてみました。
1 服への愛着が湧く
見た目は変わらなくても、一種のアップサイクルだと思います。直してまで着るという行為が、マイナスになった価値をプラスに変えてくれます。
2 同じ服を長く着ることができる
このままでは着られなかった服の寿命が延びます。必然的に新しい服を買わなくて済みます。(そうは言っても買いたくなりますが)
3 捨てなくてすんだ
ゴミの処理にもエネルギーが使われます。そのコストが削減されます。
4 服への知識が増える
直すことをきっかけに、服のタグをみたり、素材や編み地というものを意識します。洗濯の仕方や保管の仕方を見直すこともあると思います。困ったときに調べることで、知識が生きたものとして身になります。(これが一番価値ある事だと、私は思っています!)
これらは、数字には置き換えにくいですが、価値だと思います。
「上手に服と付き合う力」と言えばいいのでしょうか。それがあれば、お金や時間というコストも減らせますし、これからの地球のことを考える力にも繋がります。
ざっくりまとめると、「また着る」なら修理をしたほうがいい。
「また着る予定がない」のなら、修理するだけ逆にもったいない。
そう考えていいのではないでしょうか?
●環境省 サスティナブルファッション
環境省 サスティナブルファッション
https://www.env.go.jp/policy/sustainable_fashion/
ここでも、単純に「〇〇をしたら、エコ」とは書いていません。
服にまつわる様々な自然とエネルギーがあります。バランスを取りながら私たちは服と付き合って行かないと、いけなくなってきています。
ポイントはサスティナブル。継続できるかどうかが、ポイントだと思います。
そのためには、知ること、考えること、動くこと。
私は修理屋として、お客様に知るきっかけになってもらうことを目標にしています。
だから、仕事の合間に修理の説明が入ります。家庭でできる作業や、近所のお店でもできる可能性のある場合、それをお伝えしています。それでも、ニットキュアでないと、となれれば喜んで作業をします。
そして、きちんと作業の難易度に合わせた料金を頂きます。
縫製業界は、職人さんの給与が安くて、独立前の私も苦労しました。頑張れば頑張るほど難易度が上がり、出来ることが増える喜びはある。でも、給与はほとんど変わらない。まさに、やりがい搾取でした。
それ相応の、料金を頂くことはお店の継続性につながります。
変わらず技術を提供することも、私の使命だと思っています。
そして、次世代にきちんとつなぐ事。それを目標にしています。
そこに賛同いただければ、幸いです。
お客様が目の前の服を直すかどうかを、ご自分で情報を集め、考え、選んだのなら、直した後もよい使われ方がされると思います。
初めは面倒かもしれませんが、知識がつくにつれて、サイクルは早くできると思います。
最近読んだ本に、「化石燃料」について判り易くまとめられた本がありました。
篠原信「そのとき、日本は何人養える?」
下記にリンクを貼っておきます。
●服を直すことをやめたのなら、して欲しいこと。
全ての服を直せばいいわけではない。せっかく直してエコになると思ったのに。
肩透かしだ、と思う方もいるかもしれません。
恐らく地球環境保護とか、なにかしたい気持ちなんだと思います。その沸き上がる気持ちは、素晴らしいです。使った方がよいと思います。
そういう方には、お勧めしたいことがあります。
それは、ゴミ拾いです。
道を歩いていると、結構落ちています。
近所の公園にも、溜まっていることがあります。
私は子供と公園にいくときに、時々拾うのですがビニール袋いっぱいになります。
ゴミというのは風に飛ばされて、どうしても町に散らばるそうです。
それらは、いつかは川に集まり海に流れます。目の前のゴミを拾うことは、確実に地球環境保護と繋がります。
なにも、毎日することはありません。思い付いたとき、本当に時々でも、ひとつでも拾って、ちゃんと処理をする。
当店でも全てが直せるわけではありません。
どうしても直せない服に、「捨ててもったいない」という気持ちが湧くこともあるでしょう。
よければ、その気持ちをゴミ拾いでプラスマイナスゼロにしませんか?